「ガランタミンを使った条件では、明晰夢が増えた」。それは薬による違いなのでしょうか。それとも、一緒に行った訓練による違いなのでしょうか。例えば、次の2つのグループを比較したとします。
- グループA: ガランタミンを使用し、明晰夢の訓練も行う。
- グループB: ガランタミンを使用せず、明晰夢の訓練も行わない。
この場合、グループAで明晰夢を見る人が多くても、薬の効果なのか、訓練の効果なのか、それとも両方の効果なのか分かりません。そこで、実際の研究では、全員が同じ訓練を行い、同じ人がガランタミンを使わない場合と使う場合を経験することで、薬による違いを比較しました。
この記事では、2018年に発表された2つの研究を取り上げ、ガランタミンと明晰夢の訓練について、どのような条件で効果を比較したのか、実際の実験方法を詳しく解説します。
なお、このサイトは、サプリメントや薬の購入・使用を勧めるものではありません。明晰夢を目的とした自己判断での使用は、すべて自己責任で行ってください。 使用を考える場合は、事前に医師や薬剤師に相談してください。
研究① ガランタミンの効果を調べた121人の比較実験
2018年、スティーブン・ラバージ博士らは、明晰夢の訓練プログラムに参加した121人を対象に、ガランタミンの効果を調べた研究を発表しました。
この実験では、参加者全員が二度寝法(WBTB)とMILD法を行い、ガランタミンの量を変えて明晰夢の発生率を比較しました。具体的には、眠り始めてから約4時間半後に起き、直前に見た夢を思い出します。その後、30分以上起きて過ごし、再び眠るときにMILD法を実践しました。
比較したのは、次の3つの条件です。
- ガランタミン0mg(プラセボ・薬の有効成分を含まないもの)
- ガランタミン4mg
- ガランタミン8mg
プラセボを使用した場合でも、二度寝法とMILD法を行い、同じ訓練を行いながら、ガランタミンを追加すると何が変わるのかを調べたのです。

訓練と報告方法を共通にして、投与条件を比較しています。3条件の順番は偏らないように割り当て、参加者と実験者には条件を伏せています。LaBergeら(2018)のFigure 1とMethodsをもとに再構成。
| 実験で共通にしたこと | 比較のために変えたこと |
|---|---|
| 明晰夢についての説明と訓練 | ガランタミンを含むかどうか |
| WBTBとMILDを組み合わせること | ガランタミンの用量条件 |
| 目覚めた後の夢の記録と報告方法 | 各条件を経験する順番を参加者ごとに割り当てること |
同じ人が、別の条件も経験する
次に問題になるのが、夢の見やすさの個人差です。この研究は、同じ参加者に3条件を経験してもらう計画でした。これを「クロスオーバー研究」と呼びます。
同じ人のプラセボ条件とガランタミン条件を比べられるため、夢を見やすい人と見にくい人を別々の群へ分けるだけの比較とは違います。
さらに、条件の順番も偏らないように割り当てています。全員が同じ順番なら、後半に訓練へ慣れた影響と、成分の影響が重なってしまうからです。
飲んだものを知らない状態で比較する
「今日は薬を使ったから、明晰夢が見られるはずだ」と思うと、期待が体験や評価に影響することがあります。研究者が条件を知っていても、説明や対応に違いが出るかもしれません。
そこで、この研究では、参加者と実験者の両方に、どの投与条件なのかを伏せました。これが「二重盲検」です。期待だけでは説明できない違いを調べるための工夫です。
使用製品や補助装置も、比較の条件に含まれる
比較を読むうえでは、何が入った製品を使ったのかも重要です。この研究の製品には、ガランタミンのほかに少量のコリンとビタミンB5が含まれていました。
論文の補足資料では、ガランタミンだけを含む製品との小規模な比較も行われ、明晰夢の頻度に差は見られなかったと報告されています。コリン追加の効果を詳しく調べた比較ではないため、5つのコンビネーションモデルの検証とは区別します。
また、94人は光の合図を出す睡眠マスクも使っていました。使用した人は3条件すべてでマスクを使っています。「共通条件」とは、全員がまったく同じ道具を使ったという意味ではなく、同じ参加者の条件比較で道具の使用が変わらないようにしたということです。
瞑想・夢の再体験を組み合わせた、別の研究
ここまでの研究は、訓練をそろえて成分条件を変える設計でした。では、再び眠る前の活動も変えて比べると、どのような研究になるのでしょうか。
同じ2018年、グレゴリー・スパロー博士らは、ガランタミンと、目覚めている間の活動を組み合わせた研究を発表しました。解析対象は35人です。
こちらでは、睡眠を中断した後の活動を、待機するWBTB条件と、瞑想に夢の再体験を組み合わせるMDR条件に分けています。MDRは、つらい夢を思い出し、別の反応をしながらその夢を想像の中で体験し直す方法です。単に夢の内容を思い出すこととは違います。
その二つの活動に、それぞれ成分なし、プラセボ、ガランタミンの条件を組み合わせました。
| 睡眠を中断した後の活動 | 成分なし | プラセボ | ガランタミン |
|---|---|---|---|
| 待機(WBTB) | WBTB | WBTB+プラセボ | WBTB+ガランタミン |
| 瞑想+夢の再体験(MDR) | MDR | MDR+プラセボ | MDR+ガランタミン |
この6条件に、開始前と終了後の基準となる夜を加え、計8夜の記録を比較しています。基準の2夜は、上の6条件とは区別します。
表を横に見ると、同じ活動で成分の有無を比べられます。縦に見ると、同じ成分条件で活動の違いを比べられます。成分だけでなく、再び眠る前に何をしていたかも、研究の問いに組み込まれているのです。
二つの研究は、何を比べようとしたのか?
ラバージ博士らの研究は、同じ訓練にガランタミンを加えると、何が変わるかを比較しました。スパロー博士らの研究は、そこへ再び眠る前に何をするかという比較も加えています。同じ成分を扱っていても、研究の問いは同じではありません。
そのため、ラバージ博士らの一つの比較から、WBTBだけ、MILDだけ、訓練なしのガランタミンの効果を別々に取り出すことはできません。また、どちらも5つのトリガーモデル同士を比べた実験ではありません。
研究の条件は、成功率を読むための背景であると同時に、次に何を調べるかを決めるものでもあります。薬を使ったかだけでなく、眠る前の意図や活動も含めて比べることで、成分と訓練の関係を調べているのです。
では、その比較で、夢の景色や夢の中の思考には何が起きたのでしょうか。次の記事では、実際に報告された鮮明さ、思考、記憶、夢制御の結果を見ていきます。
