作用機序とは
脳内に存在する特定の神経伝達物質の量とタイミングをコントロールできれば、脳は「明晰夢を見やすい状態」になります。しかし神経伝達物質をサプリメントで直接口から摂取しても、血液脳関門(脳に到達する成分を制限しているバリアー機能)を通過することができず、結果、脳内の神経伝達物質を増やすことはできません。そこで、作用機序というメカニズムを活用したサプリメントを摂取することで、脳内の神経伝達物質のレベルを増やします。
サプリメントにはいくつかの作用機序があります。これらのメカニズムを理解することで、明晰夢を見るためにはどのサプリメントが良い結果をもたらす可能性があるかを判断することができ、また、異なるサプリメントを併用した際にどのように相乗効果があるかを調べることができます。
作用機序は主に4種類あり、それぞれ「前駆体(precursor)」「アゴニスト(agonist)」「アンタゴニスト(antagonist)」「再取り込み阻害(re-uptake inhibitor)」と呼ばれます。
前駆体
前駆体とは神経伝達物質の材料・原料となる物質や成分のことです。例えば、ドーパミンは血液脳関門を通過できませんが、ドーパミンの原料であるドパーミン前駆体のいくつかは、血液脳関門を通過します。ドーパミン前駆体が血液脳関門を通過すると、それを原料に脳内でドーパミンが生成されるため、ドーパミン自体が血液脳関門を通る必要がありません。
明晰夢を見るために特に重要な神経伝達物質(セロトニン、アセチルコリン、ドーパミン、ノルアドレナリン)は、それぞれ前駆体の成分を利用することで、脳内の神経伝達物質の量に直接影響を与えることができます。基本的には、最終形態に近い前駆体ほど、より効率的に影響を与えることができます。
セロトニン(5-HT)
トリプトファン → 5-HTP → セロトニン
セロトニンの前駆体であるトリプトファン、5−HTPの両方が血液脳関門を通過し、脳内に到達することができます。5- HTPのほうがセロトニンに近いため、脳内のセロトニンを増やすのに最も効果的な前駆体です。
夢見や明晰夢には直接関与していませんが、睡眠と関係のある神経伝達物質にメラトニン(Melatonin)があります。メラトニンは、体内時計に働きかけることで、覚醒と睡眠を切り替えて、自然な眠りを誘う「睡眠ホルモン」とも呼ばれています。メラトニンはセロトニンが原料となります。
セロトニン → N-アセチルセロトニン → メラトニン
そのため、セロトニンレベルが上昇すると、メラトニンレベルも増加します。
なお、メラトニンは血液脳関門を通過することができるので、眠れない人がメラトニンの量を増やしたい場合は、メラトニンのサプリメントを直接摂取したほうがより効果的です。
アセチルコリン(ACh)
GPCコリンもしくはCDPコリン → ホスファチジルコリン → コリン
ビタミンB5(パントテン酸) → 補酵素A(コエンザイムA)→ アセチルCoA
コリン + アセチルCoA → アセチルコリン
アセチルコリンは化学伝達物質であることが最初に確立された物質です。アセチルコリンは、コリンの分子にアセチル基(アセチルCoA)が付加されてできます。
ビタミンB5はアセチルCoAを形成するための最初の前駆体です。ビタミンB5は通常の食生活で十分に摂取できるため、脳内にはアセチルコリンを生成するためのアセチルCoAが豊富に存在しています。
しかし血液脳関門を効率よく通過するコリンのサプリメントは2種類しかありません。GPCコリンとCDPコリンですが、明晰夢の強化にはGPCコリンが最適とされています。これらをサプリメントで摂取することで、 脳内のホスファチジルコリンの量を増やします。それが脳内でコリンに戻り、アセチルCoAと結合しアセチルコリンを形成します。
ドーパミン(DA)
フェニルアラニン → チロシン → レボドパ → ドーパミン
ドーパミンは血液脳関門を通過しませんが、その前駆体である3つの物質はすべて通過します。この3つの前駆体のうち、レボドパが脳内のドーパミンレベルを高めるのに最も効果的です。
レボドパはパーキンソン病の治療として使われている処方薬で、簡単に入手することはできません。しかし、天然のレボドパが含まれている豆類があります。八升豆(はっしょうまめ)というインド原産の植物でムクナ豆の一種です。自然由来である八升豆のサプリメントは簡単に購入することができます。
ノルアドレナリン(NA)
ドーパミン → ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)
ドーパミンはノルアドレナリンの直接の前駆体なので、前述したドーパミンの前駆体は、すべてノルアドレナリンの前駆体としてもはたらきます。そのため、ドーパミン前駆体によってドーパミンの量が増えるとノルアドレナリンの量の増えます。
ノルアドレナリンは血液脳関門を通過することができるため直接摂取することが可能です。しかしサプリによって、ノルアドレナリンの血中濃度を必要以上に高めてしまうと、心臓の鼓動が激しくなったり、血圧が上昇したり、高血圧症を引起すなどの危ない副作用があるため、取り扱いには厳重な注意が必要です。
アゴニスト
アゴニストとは、生体内の受容体(レセプター)に結合することで、神経伝達物質と同じはたらきをする全く別の物質です。アゴニストは、基本的に神経伝達物質と同じ形をしているため受容体と結合することができます。例えると、神経伝達物質は鍵、受容体は鍵穴で、アゴニストはその鍵穴にピッタリとハマる形をした別の鍵です。
アンタゴニスト
アンタゴニストとは、他の物質のはたらきを阻害する物質のことです。鍵と鍵穴の例えを使うと、アゴニストは鍵穴にはめ込んで開けることができるのに対し、アンタゴニストは鍵穴にはめ込むことはできるが、開けることはできず、その代わりに正しい鍵である神経伝達物質や合鍵であるアゴニストが鍵を開けられないようにブロックするはたらきをします。
このはたらきによって、神経伝達物質の効率的な消費を防ぎ、間接的に脳内の神経伝達物質を量を増やします。
再取り込み阻害
再取り込み阻害は、神経伝達物質の分解を防ぐことで、その神経伝達物質が体内に長く留まるようにする物質です。神経伝達物質は、体内で絶えず生成され、同時に分解しています。再取り込み阻害により、分解されるよりも早く生成させることで、体内の神経伝達物質の量を増やすことができます。
海外で、最強の明晰夢サプリと言われているガランタミンは、再取り込み阻害剤のひとつで、明晰夢を見るためには非常に有効です。
再取り込み阻害剤の中で、MAO阻害剤と呼ばれる物質には注意が必要です。モノアミン酸化酵素(MAO)は、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンの分解を助ける化学物質です。そのためMAO阻害剤を使うと、これら3つすべての神経伝達物質量をすべて増加させてしまいます。
セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンは、明晰夢を見るためにそれぞれ最適な量とタイミングがあります。MAO阻害剤を使うと、それぞれの神経伝達物質の量やタイミングを個別にコントロールできなくなるため、海外の明晰夢研究家の間では使用されないことが多いです。