入眠時の体外離脱から明晰夢を起こすためには、まずは変性意識状態、いわゆるトランス状態になる必要があります。変性意識状態になるにはいくつか方法がありますが、初心者でも簡単に実践できる自立訓練法をご紹介します。
自律訓練法は1932年にドイツの精神科医のヨハネス・ハインリヒ・シュルツ博士によって開発されました。心身症、神経症などの、いわゆるストレスの影響が体に現れる病気に効果があり、精神疾患などの治療技法にも使われています。
自律神経という言葉を聞いたことがありますか?自律神経とは、生命活動の重大なはたらきを司る神経のことで、自分の意志ではコントロールすることができません。自律訓練法は、言葉(言語公式)とイメージ(受動的集中)を使って、本来は自分自身ではコントロールできない自律神経をコントロールし、自律神経系のバランスを回復させるリラックス法です。体の部位ごとに力を抜いていき、リラックスした時の体を意識的に再現させることで、脳をリラックス状態にします。これにより脳の自律神経や、感情の中枢を休息させ、機能を回復させることができます。また、これを使うことで変性意識状態を作り出すことができます。
自律訓練法 7段階の言語公式
仰向けに寝転んで目を閉じた状態で、7段階の言語公式(決まった言葉)を順に、心の中で繰り返し唱えることで変性意識状態を作ります。
自律訓練法 言語公式
- 背景公式
- 第1公式
- 第2公式
- 第3公式
- 第4公式
- 第5公式
- 第6公式
言語公式の注意点です。第1公式では「右腕が重たい」という言葉を心の中で何度か繰り返しますが「右腕が重たくなる」とは言いません。この語尾の違いが自律訓練法のポイント「受動的集中」です。
受動的集中とは
自律訓練法の最大のポイントが、体の変化を感じるように意識を集中する「受動的集中」です。自律訓練法は、生理的変化と心理的変化の両方を重視します。受動的集中の意識で自律訓練法を実行すると、皮膚温の上昇、血流量の増大、心拍数の減少、血圧の降下など、体がリラックスします。このような生理的変化が現れるようになると、心身の状態もそれに引っ張られるように緊張状態からリラックス状態に切り替えられます。自然に心理的変化が出てきて、心もリラックス状態になります。
生理的な体の変化を感じられるよう言語公式の「右手が重たい」という表現は、あくまで受動的に感じられるような表現にします。意識的に手を重くしようとしたり、重たく感じようとすると、リラックス状態にならずに、ストレス状態になってしまいます。ですので、仰向けに寝転んで目を閉じ、純粋に自分の体を眺めるように意識を向け集中します。何かの感覚が得られるまでただただ待ち、感覚を受け取るようにします。何かをどうこうしようとしてはいけません。焦らずに感覚に集中しましょう。
自律訓練法のやり方
- 仰向けに寝転んで、目を閉じる
仰向けに寝転んだ姿勢になって軽く目を閉じます。
この状態で、7段階の言語公式(決まった言葉)を順番に呪文のように唱えます。声は出さずに心の中で繰り返すようにします。体はできるだけ動かさないようにしてください。
- 背景公式「気持ちがとても落ち着いている」
まずは、背景公式の「気持ちがとても落ち着いている」を心の中でゆっくりと何度も唱えてください。気持ちを落ちつけようとするのではなく、自然に落ち着くのを待ちます。無理に集中せずに、ゆったりとした気持ちでぼんやりと自分の気持に意識を向けて、公式を繰り返し唱えます。
- 第1公式「手足が重い」
背景公式を何度か繰り返し、十分気持ちが落ち着いたと思ったら、第1公式に進みます。第1公式は「手足が重い」ですが、右腕、左腕、右脚、左脚と4つに分割して言語公式を唱えます。
言語公式は積上げ方式で唱えていきます。第1公式を唱える前に、まず背景公式を1度唱えてから、第1公式を繰り返し唱えてください。例えば「気持ちがとても落ち着いている。右腕が重い。右腕が重い。右腕が重い。」です。
無理に右腕を重たくしようとしないでください。右腕の感覚を感じながら「右腕が重い」を繰り返します。受動的集中を続けてください。ゆったりした気持ちで自然に暗示内容の状態になるのを待ってください。
「右手が重い」と積極的に念じる事で「右腕が重い」という感覚を意図的に無理やり作りだすことはある程度できます。しかし、その方法では途中からうまく進まなくなり、焦燥感を感じ頭でどうすればいいかを考えはじめます。
自律訓練法は脳をリラックスさせるために行ないます。受動的集中と逆の能動的集中で「手が重い!重くなるはずだ!重くなれ!こい!」と念じていると、脳が緊張感を引き起こしてしまいます。体に意識を向け、穏やかな気持ちで公式を唱えるようにしてください。
「重たいかな?」と感じたら、次に進みます。次は左腕です。
「気持ちがとても落ち着いている。左腕が重い。左腕が重い。左腕が重い。」初めは重さをあまり感じないかもしれません。繰り返しやっていると「ああ、ずっしり重いなあ。」と感じるようになります。焦らずに体の感覚を感じながらぼんやり公式を繰り返してください。
右腕→左腕→右脚→左脚と順に進めていきます。
- 第2公式「手足が温かい」
次は、手足が温かいです。
第1公式のときと同じように背景公式の「気持ちがとても落ち着いている」、第1公式の「両手が重い」を1度唱えてから「右腕が温かい。右腕が温かい。右腕が温かい。」と繰り返します。第1公式と第2公式を組み合わせた「右腕が重くて温かい。右腕が重くて温かい。右腕が重くて温かい。」でも良いです。
日向ぼっこをイメージしましょう。これもはじめは温かさを感じるのが難しいです。リラックスした気持ちで繰り返し公式を唱え「もういいかな?」と思った時点で次に進みましょう。
これも右腕→左腕→右脚→左脚と順に進めていきます。公式を繰り返し唱えながら、体の変化を感じていきます。
- 第3公式「心臓が静かに打っている」
言語公式は積上げ方式で唱えるので「気持ちがとても落ち着いている。両手両足が重い。両手両足が温かい。」の次に「心臓が静かに打っている」と唱えながら、心臓に意識を向けます。
第3公式以降は注意点があります。心臓に疾患のある人や心臓が気になる人は第3公式を省略してください。不安や緊張を高めてしてしまうことになり、リラックス状態が解除されてしまいます。
- 第4公式「楽に息をしている」
「気持ちがとても落ち着いている。両手両足が重い。両手両足が温かい。心臓が静かに打っている。」と今までの公式をすべて積み上げたその次に「楽に息をしている」と唱えます。呼吸に意識を向けてください。
第4公式の注意点です。気管支喘息など呼吸に不安がある人は、第4公式の「楽に息をしている」を省略してください。
- 第5公式「お腹が温かい」
第5公式は内臓調整の練習です。今までの公式をすべて積み上げ、その次に「お腹が温かい」と唱えます。お腹がじんわり温かくなってきますので、その体の変化を感じてください。
胃や十二指腸などに腫瘍があったり、痛みを伴う炎症が有る場合には省略して下さい。
- 第6公式「額が心地よく涼しい」
最後の公式です。今までの公式をすべて積み上げたその次に「額が心地よく涼しい」と唱えます。何度か繰り返し、額が涼しなってくるのを感じます。
頭痛、てんかん、その他頭部に疾患のある人は,第6公式「額が心地よく涼しい」を省略します。
繰り返しになりますが、リラックスして重い、温かい、楽という感覚が自然に現れるのを待つようにすることが大切です。
自律訓練法を通じて、体から力が抜けた弛緩の状態を覚えましょう。完全に筋肉から力を抜くことで、体の緊張から解放され、深いリラックス状態を作り出すことができます。そして、この自律訓練法を繰り返し行う事で変性意識状態を作れるようになります。この方法で変性意識状態がどういう状態なのか、体と心の感覚を覚えましょう。繰り返すことで、複式呼吸の調節や瞑想などでも、変性意識状態を作り出すことができるようになります。
ガイダンス音声
自立訓練法には、ガイダンス音源があります。ガイダンス音源をヘッドホンで聴きながら実行することで、難しい自律訓練法を短時間で習得することができます。私は最初からガイダンス音声を使って訓練しました。
男性の声、女性の声、有料版、無料版いろいろありますが、おすすめはアマチュアの声優さんが作った同人ボイスです。自分にあったものをみつけてください。
消去運動
就寝前に訓練を行った場合は、このまま眠ってもよいのですが、自律訓練法の後に、起きて何かを行う場合は、自己催眠から覚める為に消去運動が必要です。消去運動を行わないと、めまいや脱力感などを生じることがあります。必ず消去運動を行って自己催眠状態から醒め、気分をスッキリさせてください。
消去動作とは、次のような動作です。
- 両手を強く握ったり、開いたりする
- 両手を組んで大きく伸びをする
- 首や肩をよく回す
- 背伸びをしながら深呼吸をする
- 立ちあがり、伸脚運動や屈伸運動をする
これらを十分に行って、心と体を目覚めさせてください。