神経伝達物質の働きを調節する方法は、一つではありません。材料を補う成分もあれば、受容体へ直接働きかける成分や、分解を抑える成分もあります。この違いが分かると、成分を組み合わせる理論も理解しやすくなります。
この記事では、薬やサプリメントが神経伝達物質に働きかける5つの「作用機序」について解説します。
なお、このサイトは、サプリメントや薬の購入・使用を勧めるものではありません。明晰夢を目的とした自己判断での使用は、すべて自己責任で行ってください。使用を考える場合は、事前に医師や薬剤師に相談してください。
作用機序とは
脳内に存在する特定の神経伝達物質の量や働くタイミングをコントロールできれば、脳を「明晰夢を見やすい状態」に近づけることができます。しかし、神経伝達物質の中には、口から直接摂取しても、血液脳関門(脳に入る物質を制限するバリア)を通過できないものがあります。
そこで利用するのが、神経伝達物質の材料を補ったり、その働きを強めたり、抑えたりする成分です。こうした薬やサプリメントの成分が、体内でどのように働くのか、その仕組みを「作用機序」と呼びます。
例えば、神経伝達物質のアセチルコリンを作る材料となる「コリン」と、アセチルコリンの分解を抑える「ガランタミン」では、働きかける仕組みが異なります。コリンはアセチルコリンの材料を補い、ガランタミンはアセチルコリンが分解されるのを抑えます。こうした異なる働きを組み合わせて、アセチルコリンの働きを高めようというのが、明晰夢サプリメントのレシピの一つです。
作用機序を理解することで、それぞれの成分がどのように働くのかが分かり、明晰夢サプリメントのレシピを、成分の働きから読み解く際にも役立ちます。
この記事では、神経伝達物質の働きを調節する代表的な5つの仕組み、「前駆体(precursor)」「アゴニスト(agonist)」「アンタゴニスト(antagonist)」「再取り込み阻害(reuptake inhibition)」「分解阻害(enzyme inhibition)」について、順番に解説していきます。
前駆体
前駆体とは、体内で化学反応によって別の物質に変換される前の段階にある物質です。脳内の神経伝達物質も、さまざまな前駆体を材料として作られています。
神経伝達物質そのものが血液脳関門を通過できなくても、その材料となる前駆体なら通過できる場合があります。例えば、ドーパミンそのものは血液脳関門を通過できませんが、その前駆体であるレボドパは通過することができます。これは、レボドパがアミノ酸を脳内に運ぶ輸送システムを利用できるためです。そして、脳内に入ったレボドパはドーパミンに変換されます。
つまり、神経伝達物質そのものを直接摂取しなくても、その材料となる前駆体を補うことで、脳内の神経伝達物質の生成を促す方法があるのです。
明晰夢を見るうえで重要と考えられている4つの神経伝達物質、セロトニン、アセチルコリン、ドーパミン、ノルアドレナリンには、それぞれ材料となる前駆体があります。これらの前駆体を利用することで、脳内の神経伝達物質の量に影響を与えることができます。ただし、前駆体によって、血液脳関門の通過しやすさや、神経伝達物質に変換されるまでの仕組みは異なります。そのため、前駆体を摂取すれば必ず脳内の神経伝達物質が増えるわけではなく、その効果も成分によって異なります。
セロトニン(5-HT)
トリプトファン → 5-HTP → セロトニン
セロトニンの前駆体であるトリプトファンと5-HTPは、どちらも血液脳関門を通過することができます。5-HTPはトリプトファンよりもセロトニンに近い段階の前駆体で、脳内でセロトニンに変換されます。そのため、セロトニンの生成を促す成分として利用されています。
また、セロトニンは睡眠ホルモンと呼ばれる「メラトニン(Melatonin)」の材料にもなります。メラトニンは体内時計に働きかけ、睡眠と覚醒のリズムを調節するホルモンです。
セロトニン → N-アセチルセロトニン → メラトニン
セロトニンはメラトニンの前駆体でもあるため、セロトニンの量を増やすことは、メラトニンの生成を促すことにもつながります。
なお、メラトニンは血液脳関門を通過できるため、メラトニンそのものを摂取して睡眠と覚醒のリズムに働きかける方法もあります。メラトニンは海外ではサプリメントとして販売されていますが、日本では医薬品成分に分類されており、一般的なサプリメントとして国内販売することは認められていません。
アセチルコリン(ACh)
GPCコリン(Alpha-GPC)→ コリン
CDPコリン(シチコリン)→ コリン
ビタミンB5(パントテン酸) → 補酵素A(コエンザイムA)→ アセチルCoA
コリン + アセチルCoA → アセチルコリン
アセチルコリンは、神経伝達物質としての働きが最初に実証された物質です。コリンとアセチルCoAを材料として作られ、記憶や注意、筋肉の動き、レム睡眠などに関わっています。
アセチルコリンを作るためには、コリンだけでなく、アセチルCoAも必要です。アセチルCoAの生成には、補酵素Aの材料となるビタミンB5(パントテン酸)が関わっています。ビタミンB5は多くの食品に含まれており、通常の食生活から摂取できます。
一方、コリンを供給するサプリメントには、コリン塩(酒石酸水素コリンやクエン酸コリン)、Alpha-GPC、CDPコリン(シチコリン)などがあります。これらは、それぞれ異なる形でコリンを供給し、アセチルコリンの生成に利用されます。
明晰夢の組み合わせ理論では、アセチルコリンの分解を抑えるガランタミンと、材料となるコリンを基本として組み合わせます。この基本レシピのコリンは、酒石酸水素コリンまたはクエン酸コリン由来のものです。さらに、明晰夢の持続時間を伸ばすことを目的として、Alpha-GPCを追加する派生レシピもあります。
ドーパミン(DA)
フェニルアラニン → チロシン → レボドパ → ドーパミン
ドーパミンは血液脳関門を通過しませんが、その前駆体であるフェニルアラニン、チロシン、レボドパは通過します。この3つの前駆体のうち、レボドパが脳内のドーパミンレベルを高めるのに最も効果的であると考えられており、パーキンソン病の治療ではレボドパを含む薬で脳内のドーパミンを補っています。
レボドパはパーキンソン病の治療に使われている処方薬で、簡単に入手することはできません。しかし、天然のレボドパが含まれている豆類があります。インドなどに分布する「ムクナ豆(Mucuna pruriens)」という植物で、八升豆(ハッショウマメ)とも呼ばれています。自然由来である八升豆のサプリメントは簡単に購入することができます。
医薬品に使われているレボドパと同じ成分を、植物由来の製品から摂取することもできるのです。ただし、天然由来だから作用が弱いというわけではありません。ムクナ豆のサプリメントは製品によってレボドパの含有量に大きな差があり、副作用にも注意が必要です。
ノルアドレナリン・ノルエピネフリン(NA)
フェニルアラニン → チロシン → レボドパ → ドーパミン → ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)
ドーパミンはノルアドレナリンの直接の前駆体です。そのため、フェニルアラニン、チロシン、レボドパといったドーパミンの前駆体は、ノルアドレナリンの材料にもなります。
ノルアドレナリンそのものは血液脳関門を容易には通過できませんが、これらの前駆体を利用することで、脳内のノルアドレナリンの生成に働きかけることができます。ただし、ドーパミンが増えた分だけノルアドレナリンも増えるわけではありません。
また、ノルアドレナリンは覚醒や注意力だけでなく、心拍数や血圧の調節にも関わる神経伝達物質です。そのため、ノルアドレナリンの働きを強める成分を使用すると、動悸や血圧の上昇などが起こることがあります。明晰夢を誘導するためにノルアドレナリンの働きを調節する場合には、こうした副作用にも注意が必要です。
アゴニスト
アゴニストとは、神経伝達物質の代わりに受容体(レセプター)に結合し、同じような働きを引き起こす物質です。神経伝達物質を「鍵」、受容体を「鍵穴」に例えてみます。通常は、神経伝達物質という鍵が鍵穴に入ることで、神経細胞に信号が伝わります。アゴニストは、同じ扉を開けることができる別の鍵のようなものです。つまり、神経伝達物質そのものを増やさなくても、アゴニストを利用することで、神経伝達物質と同じような働きを引き起こすことができます。
例えば、たばこにも含まれるニコチンは、アセチルコリンが働く受容体のうち、脳内のニコチン性受容体を活性化させるアゴニストです。アセチルコリンの材料を補うコリンとは違い、受容体へ直接働きかけます。
アンタゴニスト
アンタゴニストとは、神経伝達物質などが受容体に結合し、その働きを発揮するのを妨げる物質です。
先ほどの鍵と鍵穴の例えを使うと、アゴニストは鍵穴に差し込んで扉を開けることができる別の鍵でした。一方、アンタゴニストは鍵穴に入ることはできますが、扉を開けることはできません。それどころか、鍵穴をふさいで、本来の鍵が入るのを邪魔してしまいます。つまり、神経伝達物質やアゴニストが受容体を活性化させるのをブロックするのです。
この仕組みを利用すれば、神経伝達物質そのものの量を減らさなくても、特定の受容体の働きを抑えることができます。ただし、受容体の中には、神経伝達物質が出すぎないようにブレーキをかける役割を持つものもあります。こうした受容体をブロックすると、逆に神経伝達物質の放出が増えることがあります。
例えば、ヨヒンビンは、ノルアドレナリンの放出を抑える「α2受容体」をブロックするアンタゴニストです。つまり、ノルアドレナリンの放出を抑えているブレーキを弱めることで、結果としてノルアドレナリンが放出されやすくなるのです。
再取り込み阻害
神経伝達物質は、神経細胞から放出されて情報を伝えた後、その一部が元の神経細胞に回収されます。この仕組みを「再取り込み」と呼びます。再取り込み阻害剤は、この回収を妨げることで、神経伝達物質が神経細胞の間に長く留まり、作用し続けるようにする物質です。つまり、神経伝達物質の生成量を増やさなくても、その働きを強めることができるのです。
例えば、うつ病の治療に使われる一部の薬は、セロトニンやノルアドレナリンの再取り込みを阻害することで、その働きを調節しています。このように、再取り込みを抑えることも、神経伝達物質の働きをコントロールする方法の一つです。
分解阻害
神経伝達物質の働きを強める方法には、再取り込みを妨げるだけでなく、神経伝達物質が分解されるのを防ぐ方法もあります。明晰夢の研究で特に注目されているのが、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害剤です。
アセチルコリンは、神経細胞から放出された後、アセチルコリンエステラーゼという酵素によって分解されます。AChE阻害剤は、この酵素の働きを抑えることで、アセチルコリンの作用を長く持続させます。代表的な薬が「ガランタミン」です。つまり、ガランタミンはアセチルコリンの「再取り込み」を妨げるのではなく、「分解」を抑えることで、その働きを強めるのです。
ガランタミンは、海外の明晰夢研究家の間でも、特に強力な明晰夢誘導成分として知られています。実際、2018年の研究では、ガランタミンと明晰夢の訓練法を組み合わせることで、明晰夢を見る割合が高まったことが報告されています。
私自身、これまでさまざまなサプリメントを試してきましたが、最も効果を実感したのがガランタミンです。海外から個人輸入して使用していましたが、私の場合、使用するたびに明晰夢を見ることができました。なお、日本で承認されているガランタミン製剤は処方箋医薬品であり、明晰夢を目的とした使用は承認されていません。
MAO阻害剤
神経伝達物質の分解を抑える成分には、MAO阻害剤と呼ばれるものもあります。MAOとは「モノアミン酸化酵素」のことで、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンなどを分解する働きがあります。MAO阻害剤は、この酵素の働きを抑えることで、複数の神経伝達物質の量や作用に影響を与えます。
しかし、明晰夢を誘導するためには、神経伝達物質を単純に増やせばよいわけではありません。セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンは、それぞれ睡眠や夢に異なる影響を与えます。そのため、複数の神経伝達物質に同時に作用するMAO阻害剤は、特定の神経伝達物質だけを調節したい場合には扱いにくい成分です。
さらに、MAO阻害剤は特定の食品や医薬品との組み合わせによって、危険な血圧上昇やセロトニン症候群などを引き起こすことがあります。
参考文献・一次資料
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